2012年3月11日に玄海灘で釣れた10.5kg、これから産卵するであろう雌のブリ
産卵期の前の、急激な浅深移動の意味は、産卵期だけに産卵に関係していると考えるのが当たり前だが、学者はその可能性が高いとしているだけである。学者は確かなデータを必要とするので憶測では駄目なのだ。産卵期以外の浅深移動の行動はデータに記録されてなく、産卵に関係しているのは明白だ。
自分の予想では、産卵時に卵や精子を放出する為に、魚自体の腹部筋肉だけでの放出には無理があり、水圧を利用しているのだろう。
急浮上で卵や精子を腹部から肛門に移動させ、時期が来たら放出するのだ。数日から数週間おきに産卵を何回か繰り返す多回産卵なので、何回か産卵し、受精させる。腹部の卵や、精子を産卵した後に、次に産卵する卵や精子を肛門部に移動させるのだ。
マグロやカツオはボイルしたり、跳ねたりして、卵や精子を海面で出して産卵し、海面が白く濁る。着水する時の圧力で放出するのだ。
マダイも、根周りの水深20mから1匹の雄が数匹の雌を追いかけ、急浮上して、表層で卵と精子を放出し、産卵受精させる。ヒラメもマダイと同じような行動で産卵する。
産卵期の魚を釣り上げると、水中と違って、陸上では気圧が強いのか、肛門から卵や精子を出す魚が多くいるが、ブリの大型を産卵期に釣っても、肛門から卵や精子が出た試しがない。ヒラマサ、カンパチは精子を出した個体がいたが、ブリは開腹しても、産卵前の未成熟卵、未熟精子の個体ばかりだ。
日本海では5〜6月に、産卵後の頭でっかちの大型鰤が釣れるが、産卵間際の個体が釣れたことが無い。芥子粒のように小さい卵を産卵する魚種は莫大な量の卵を産むので、腹腔が卵で圧迫され食道や胃が閉鎖されてしまい、捕食ができない状態になり、産卵期に口を使わない。産卵行動の邪魔や卵の捕食者に攻撃を仕掛け、口を使わないが釣れることも多い。
2〜4月の中旬には、アーカイバルタグで解析される前から、玄海灘沖の七里が曽根周辺の水深90mで9〜13kgの、これから産卵するであろうブリが釣れるが、5月になると産卵後のブリが多くなる。
産卵に加わらない2年魚、メジロ、ワラサのサイズは9℃以上の水塊のエリアで越冬しているが、潮温が低いので、低温麻痺の状態で引きも弱い。また、ベイトになる小魚も少なく、この時期に大発生するアミエビやオキアミを捕食するが太れるほどのカロリーは無く、北上に向けてコンデションを整えて体力を付けていくが、この頃のブリの味は、いまいちだ。やはり、イカやカタクチイワシなどの動物蛋白質を捕食して太らないと良い味にならない。釣るのは簡単で、ゆっくりめのジャークの方がバイトして来る。
日本海で2〜4月の産卵後の餌になっているアミ(左)とツノナシオキアミ(イサダアミ)(右)
ワレカラ類の幼生はアミやツノナシオキアミの餌となっている
越冬した群れは、潮温が13℃を超えると季節移動回遊で北上を始めるが、本格的に北上するのはベイトが多くなる5月過ぎだろう。
日本海系群は、東シナ海で1〜4月に産卵するが1〜2月の早い時期に産卵した大きめのブリは、産後の養生が上手くできると潮に乗り北上移動する。産卵後の個体は頭でっかちの痩身のブリで大根ブリと呼ばれたりする。
島根、鳥取沖では、4月の初旬から釣れる、長さはあるが、目方が無い個体だ。
一方、玄海灘や五島列島では活性の高い、これから産卵に入るであろうブリがジグにバイトして来るが、何故か、体力のない産後のブリはあまり釣れない。ポイントが違うのだろうか?
4月、5月は、このエリアにヒラマサの産卵前の群れが回遊し、荒喰いするので、ブリのいるポイント、水深90mで少し濁りのある潮目を攻めないことも、釣れない原因だろう。
ブリ糸状虫、潮温が高くなると体外に出ていなくなるが、小さい幼生がいる
不思議なのは産卵が終わる時期の4月頃から、ブリの体内にブリ糸状虫が出現し、身の筋肉内に赤く細く長くなっていたり、筋肉内に空洞を作り、とぐろを巻いていたりする。20℃以上に潮温が上昇する頃には、いなくなるが、身に黄色い隔壁の空洞の穴が開いている。この穴はブリ糸状虫の雌が寄生した痕だ。
雌雄同体で雄虫と雌虫に分かれると雄虫は交接後死ぬ。雌虫は体腔内を移動しながら一年がかりで成熟し、寄生特定部でとぐろを巻き、成熟した大きい雌虫は、雄から精子を受け取り、幼生を産出する為、アミやオキアミ類が産卵で浮上する冬期に、体外に脱出して、胎生で幼生を産出する。幼生はカイアシ類(copepods)が中間宿主で、それに寄生し、それを捕食するアミ、オキアミ類が寄生され、それを食べる魚が最終宿主になる。アミやオキアミが居ないエリアにはブリ糸状虫に寄生された魚は少ない。
この寄生虫の生活史がはっきりと判明したのではなく、魚糸状虫の研究からの知見からの推測である。人に寄生せず、悪さをしないので、研究を推進する学者がいないのだ。
人に寄生はしないが、美味しい刺身を期待して、ブリを三枚にした時に、これがとぐろを巻いていたら、いい気分にはならないだろう。大きいのがいて、動いたら叫び声が出そうだ。
学者は、ブリの外見からは雄雌の区別はできないとしているが、目の中の黒目の形で雄雌の区別ができるとする漁師もいる。そこで、釣れたブリの腹を裂いて、雄雌を確認し、黒目の見比べを試みたが、不思議なことに雌ばかり釣れて、雄が少ないのに気が付いた。警戒心が強いのかで釣れない。魚類の大半は雌の方が産卵の為、栄養が欲しいのか、最初に大型の雌が釣れる。研究者の報告では雄と雌の比率は50%であるが、3〜5kgの2〜3年魚は雄と雌と分かれて行動しているのではと考えてしまう。