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魚と釣り

2014年11月

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2012年3月11日に玄海灘で釣れた10.5kg、これから産卵するであろう雌のブリ

産卵期の前の、急激な浅深移動の意味は、産卵期だけに産卵に関係していると考えるのが当たり前だが、学者はその可能性が高いとしているだけである。学者は確かなデータを必要とするので憶測では駄目なのだ。産卵期以外の浅深移動の行動はデータに記録されてなく、産卵に関係しているのは明白だ。

自分の予想では、産卵時に卵や精子を放出する為に、魚自体の腹部筋肉だけでの放出には無理があり、水圧を利用しているのだろう。

急浮上で卵や精子を腹部から肛門に移動させ、時期が来たら放出するのだ。数日から数週間おきに産卵を何回か繰り返す多回産卵なので、何回か産卵し、受精させる。腹部の卵や、精子を産卵した後に、次に産卵する卵や精子を肛門部に移動させるのだ。 

マグロやカツオはボイルしたり、跳ねたりして、卵や精子を海面で出して産卵し、海面が白く濁る。着水する時の圧力で放出するのだ。
 
マダイも、根周りの水深20mから1匹の雄が数匹の雌を追いかけ、急浮上して、表層で卵と精子を放出し、産卵受精させる。ヒラメもマダイと同じような行動で産卵する。

産卵期の魚を釣り上げると、水中と違って、陸上では気圧が強いのか、肛門から卵や精子を出す魚が多くいるが、ブリの大型を産卵期に釣っても、肛門から卵や精子が出た試しがない。ヒラマサ、カンパチは精子を出した個体がいたが、ブリは開腹しても、産卵前の未成熟卵、未熟精子の個体ばかりだ。

日本海では5〜6月に、産卵後の頭でっかちの大型鰤が釣れるが、産卵間際の個体が釣れたことが無い。芥子粒のように小さい卵を産卵する魚種は莫大な量の卵を産むので、腹腔が卵で圧迫され食道や胃が閉鎖されてしまい、捕食ができない状態になり、産卵期に口を使わない。産卵行動の邪魔や卵の捕食者に攻撃を仕掛け、口を使わないが釣れることも多い。

2〜4月の中旬には、アーカイバルタグで解析される前から、玄海灘沖の七里が曽根周辺の水深90mで9〜13kgの、これから産卵するであろうブリが釣れるが、5月になると産卵後のブリが多くなる。

産卵に加わらない2年魚、メジロ、ワラサのサイズは9℃以上の水塊のエリアで越冬しているが、潮温が低いので、低温麻痺の状態で引きも弱い。また、ベイトになる小魚も少なく、この時期に大発生するアミエビやオキアミを捕食するが太れるほどのカロリーは無く、北上に向けてコンデションを整えて体力を付けていくが、この頃のブリの味は、いまいちだ。やはり、イカやカタクチイワシなどの動物蛋白質を捕食して太らないと良い味にならない。釣るのは簡単で、ゆっくりめのジャークの方がバイトして来る。

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日本海で2〜4月の産卵後の餌になっているアミ(左)とツノナシオキアミ(イサダアミ)(右)

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ワレカラ類の幼生はアミやツノナシオキアミの餌となっている

越冬した群れは、潮温が13℃を超えると季節移動回遊で北上を始めるが、本格的に北上するのはベイトが多くなる5月過ぎだろう。

日本海系群は、東シナ海で1〜4月に産卵するが1〜2月の早い時期に産卵した大きめのブリは、産後の養生が上手くできると潮に乗り北上移動する。産卵後の個体は頭でっかちの痩身のブリで大根ブリと呼ばれたりする。

島根、鳥取沖では、4月の初旬から釣れる、長さはあるが、目方が無い個体だ。

一方、玄海灘や五島列島では活性の高い、これから産卵に入るであろうブリがジグにバイトして来るが、何故か、体力のない産後のブリはあまり釣れない。ポイントが違うのだろうか?

4月、5月は、このエリアにヒラマサの産卵前の群れが回遊し、荒喰いするので、ブリのいるポイント、水深90mで少し濁りのある潮目を攻めないことも、釣れない原因だろう。


ブリ糸状虫ブリ糸状虫1
ブリ糸状虫、潮温が高くなると体外に出ていなくなるが、小さい幼生がいる

不思議なのは産卵が終わる時期の4月頃から、ブリの体内にブリ糸状虫が出現し、身の筋肉内に赤く細く長くなっていたり、筋肉内に空洞を作り、とぐろを巻いていたりする。20℃以上に潮温が上昇する頃には、いなくなるが、身に黄色い隔壁の空洞の穴が開いている。この穴はブリ糸状虫の雌が寄生した痕だ。

雌雄同体で雄虫と雌虫に分かれると雄虫は交接後死ぬ。雌虫は体腔内を移動しながら一年がかりで成熟し、寄生特定部でとぐろを巻き、成熟した大きい雌虫は、雄から精子を受け取り、幼生を産出する為、アミやオキアミ類が産卵で浮上する冬期に、体外に脱出して、胎生で幼生を産出する。幼生はカイアシ類(copepods)が中間宿主で、それに寄生し、それを捕食するアミ、オキアミ類が寄生され、それを食べる魚が最終宿主になる。アミやオキアミが居ないエリアにはブリ糸状虫に寄生された魚は少ない。

この寄生虫の生活史がはっきりと判明したのではなく、魚糸状虫の研究からの知見からの推測である。人に寄生せず、悪さをしないので、研究を推進する学者がいないのだ。 

人に寄生はしないが、美味しい刺身を期待して、ブリを三枚にした時に、これがとぐろを巻いていたら、いい気分にはならないだろう。大きいのがいて、動いたら叫び声が出そうだ。



学者は、ブリの外見からは雄雌の区別はできないとしているが、目の中の黒目の形で雄雌の区別ができるとする漁師もいる。そこで、釣れたブリの腹を裂いて、雄雌を確認し、黒目の見比べを試みたが、不思議なことに雌ばかり釣れて、雄が少ないのに気が付いた。警戒心が強いのかで釣れない。魚類の大半は雌の方が産卵の為、栄養が欲しいのか、最初に大型の雌が釣れる。研究者の報告では雄と雌の比率は50%であるが、3〜5kgの2〜3年魚は雄と雌と分かれて行動しているのではと考えてしまう。

自分の判断では黒目が「少しだけ先が涙滴型」がオスで、「先が少し尖っている涙滴型」がメスの判断としたが、まだ観察途中である。

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ブリの雄の目、少しだけ先が涙滴型

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ブリの雌の目、先が少し尖っている涙滴型


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1999年1月4日、南紀白浜沖で釣れた、17.1kg


そこにいる魚を釣るのには、生態の解明はさほど必要ないが、釣れなくなると、昔は沢山いたとほざくのが釣り人だ。確かに小魚は沢山いたが、ターゲットとした魚は価値があり、プロの職漁が優先的に獲るので、そう簡単には釣れない。

ところが最近は地球温暖化で、海水温の上昇や浮魚礁の設置、稚魚の捕獲制限、撒き餌の禁止などの効果なのか、釣り具の進歩なのか、釣り人の腕がいいのか、キハダやクロマグロの2〜3年魚の30kgを超す釣果も多く、50kgオーバーも釣れるほどだ。 

相模湾のブリは日本海の寒ブリと違い、産卵が5〜6月と遅く、旨みが出るのは産卵前の3〜4月である。寒ブリのイメージが強いので、春の終わりには魚価も安く、漁師も気合が入らないのか、定置網以外の漁獲が無い。

相模湾西側、小田原から伊豆半島の相模湾側はブリの回遊のルートで、定置網に入るブリの漁獲量は多くあったが、海岸線に有料道路を開通させると極端に量が減ってしまった。夜間、車のヘッドライトが移動しながら海面を照らすので、警戒して沿岸に寄らなくなってしまったのだ。

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大正5年、小田原の定置網にブリ6万匹の大漁
 
また、ブリになる前の幼魚、モジャコ、ワカシや、イナダを獲っていたのもブリが獲れなくなる要因になった。
 
四国でハマチの魚名で大量蓄養され、産業化されると、伊豆半島の内湾が、宇佐美、網代、下田、内浦、静浦等でも蓄養養殖が始まった。人工種苗も生産できたが、価格が高いうえ、病気に弱く、奇形になる率も高かったので、天然種苗、モジャコの捕獲を大々的にしたのだ。

まだ、開鰾(かいひょう)が解明されていない時代だ。

生まれて間もない仔魚の時に空気を吸い、鰾を開き、それに伴い背骨が真直ぐになる。開鰾しないと仔魚が沈んで死んでしまったり、背骨が曲がったりする原因が不明であった。自然界では卵の浮力と海水の塩分濃度により、浮力が付き、ゆっくりと浮上して、その間に孵化して仔魚になり、水面で空気を吸う。鰾の機能を獲得する。遊泳力がないので潮目に多く寄せられ、流藻や、浮遊物としばらく一緒に移動行動する。

親になる前の稚仔魚を捕獲すれば、産卵する親がいなくなるのは当たり前で、極端な種の減少に繋がる。産卵を1回でもすれば、種の減少が起こる率は小さくなる。

成長はヒラマサよりは遅いが、他の魚に比べれば早い方だ。

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ブリの成長と回遊 

養殖魚のハマチの餌に、病気予防の為、抗生物質が大量に入っているのをNHKのテレビが暴露した。それでハマチ離れが起き、蓄養養殖の規模が縮小され、稚魚の捕獲も少なくなった。

現在は潮温上昇で生息エリアの拡大もあり、増加している。特に北海道、太平洋側、オホーツク沿岸の回遊が多くなった。

魚の生態を調べることが大事であるのは、研究者は十分知っていたが、フィールドワークの設備が貧弱で、長期に渡り研究できない事情もあり、解明が遅れている。

IT技術の進歩で、生息環境も記録できる、行動記録式タグができ、年々小型化している。タグの名はアーカイバルタグだ。リリースした魚を再捕する事でデータを取り出すので、関係者の協力が必要だが、釣り人は無関心だ。

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カナダ・LOTEK社のアーカイバルタグ
 

夏に相模湾で釣れていたキハダ、20〜30kgは2年魚で、まだ若い魚でも大物と呼ぶ、大きいが若魚だ。そのくらい、知らないと駄目だ。

サイズのばらつきは捕食能力で差が出る。捕食能力が高いと大きくなるが釣られやすく、警戒心が強いと捕食率が低くなり、大きく成長しない。

キハダは表層で周年、北回帰線と南回帰線の間のエリアで産卵しているので、遅生まれ、早生まれでサイズのばらつきも出やすく、群れの合流を繰り返し、大きいサイズは遊泳能力も高いので大きい同士で群れを作り、小さい魚は小さい同士で群れを作る傾向が強い。特に魚食魚は稚魚の時に共食いをする傾向があり、小さいサイズは捕食されサイズが均等化する。

ブリは産業上重要な魚種で、関東より西の海のある県で盛んに調査されている。特に日本海では寒ブリが年取り魚なので大事で研究され、回遊コースは解析された。

太平洋側は回遊コースも確定されずで、ブリと呼べる6〜10kgサイズの腹を開腹し、アーカイバルタグを腹腔内に挿入して、短時間で縫合手術し、センサーアンテナを出した状態で放流する。このタグは円筒形で10cm以上の長さであったが、最新の物は3〜5cmなので、魚に与えるダメージを軽減できるようになった。タグの価格は5〜10万円だ。

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(左から)開腹と装入
 
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(左から)縫合とセンサー確認

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背中に目印のアンカータグの装着

定置網や1本釣りで採捕されたブリのアーカイバルタグのデータを解析したところ、ブリの遊泳水温は18〜23℃の層で、春は90mを、表層水温が上昇する夏には50〜80m層を移動遊泳している。

産卵期になると200mより深い層に頻繁に潜っては急浮上を繰り返し、最深430mまで潜った記録が出てきた。

学者はこの行動の意味を不明としているのだが、産卵期ゆえ、産卵行動と何らかの関係があるだろうと予想している。この深く潜ったブリは薩南海域の黒潮流域を回遊移動していた個体である。ブリはヒラマサと違い、透明度の高い黒潮流域を嫌い、沿岸部の若干濁りのあるエリアを好む。この海域に来遊するのは産卵の為しか考えられない。生まれた場所に、産卵の為に帰る帰巣本能だ。若い時は潮に乗り、旅をして、性成熟すると生まれたエリアに帰るのだ。

旅は人間も魚も成長させるのだ。


↓神奈川水産技術センターのブリ再捕のポスター。釣り人も協力しないと駄目!
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