club.bigonesのblog

魚と釣り

2015年02月

タチウオ、2kg東京湾
東京湾、観音崎沖水深80mで2㎏のタチウオ、東京湾では超大型だ。

タチウオ科、タチウオ属の魚は見た目が似ているので分類が難しいのか、研究者が少ないのか、詳しい調査が進み始めたのは最近だ。 

尾鰭が退化して、尾鰭方向に先細りで、尾鰭が極小や無いのが最大の特徴で、魚体や体色は全種で似ている。

小さい尾鰭がある種が多く、タチウオ科11属の内、6属は小さい尾鰭があり、「●●●タチモドキ属」と名が付く、タチウオ属を含む、4種は尾鰭が無い種で、残り1属1種の詳細は不明だ。

0166dca9.jpg

 日本沿岸に生息するタチウオ科9属。

95ef8db6.jpg

尾鰭が極小のタチモドキ。尾鰭が極小の属は6属。 
 

1993年までは日本の近海、北関東、新潟以南に生息するタチウオは1種であったが、1993年にテンジクタチが登録され、1995年にオキナワオオタチが登録されて、3種になった。

魚類分類学者の大博士、中坊徹次編集の日本産魚類検索第2版(2000年)には変異種として「白手」、「黒手」が記載されているが、2013年の第3版には記載がない。

タチウオの白手は目が大きく、体色が白銀で、体高がある。

黒手は目が小さく、体色が何となく黒ずんでいて、体高は普通等と記してあるが、この違いは東京湾、駿河湾、伊勢湾、瀬戸内海、日本海で釣れるタチウオの「雌」と「雄」の特徴と合致する。

また、2007年の「東シナ海、黄海の魚類誌」には「ミナミタマタチ」と呼ぶタチウオの記載があるが詳細は不明だ。

関西方面では背鰭前部が黄ばんでいる、キビレタチウオと呼ばれるタチウオがいるが、テンジクタチの背鰭も黄ばんでいて、背鰭に黒い帯状の横縞が一つあるが、釣り上げると背鰭をたたんでしまい、黄ばんでいるのが分かるだけで、婚姻色なのか、体色変異なのか、詳細が不明だ。

標準和名タチウオは、古い魚類図鑑では学名がTrichiurus lepturusであるが、遺伝子の違いから別種とされ、現在はTrichiurus japonicusである。新しい魚類図鑑を買う時の目安にするとよい。

Trichiurus lepturus はテンジクタチの学名にも使われたが、遺伝子解析で相違点が多く、現在、Trichiurus sp. 2として、また、オキナワオオタチもTrichiurus sp.1として研究調査中である。 

タチウオ科タチウオ属の魚は現在、10種登録され、学名が無い2種を入れると12種で、日本近海に生息しているタチウオ科タチウオ属の魚は3種としている。




8c3b45fa.jpg

タチウオの進化の過程。 
 

タチウオの名の由来は銀色に光る刀、太刀のように見えるからであり、最近の水族館では立って泳ぐのでタチウオとの説明もあるようだが、古くは生態が解っておらず、この名の由来は間違いだ。また、英名のつもりでサーベルフィッシュ(Sabelfish)と呼ぶ人もいるが、サーベルはオランダ語で、Sabelfishはギンダラを意味する。

英語ではセィバーフィッシュ(Saberfish)がタチウオの意味で、サーベルもセィバーも騎兵の軍刀、洋剣の事だ。

通常の呼び名はカトラスフィッシュ(Cutlassfish)が一般的で、カトラスは船乗りが腰に装着している短剣のこと。

釣り好きで、魚の事を良く知っている人は尾鰭が細く柔らかいので、ヘアーティル(Hairtail)とか、背鰭が長くヒラヒラしているのでリボンフィッシュ(Ribbonfish)と呼んでいる。

e0ea744b.jpg

欧米ではカトラスフィッシュが通常の呼び名だ。

 
 
日本近海に生息している3種の解説をしよう。
○タチウオ(太刀魚)
 学名 Trichiurus japonicus 
 英名 Japanese largehead hairtail
本種は長い間、学名Trichiurus lepturus、英名largehead hairtailと同定されていたが細胞内のミトコンドリアDNAの分化の違いがあり別種になった。

津軽海峡以南に生息し捕獲されているが、漁業的には、太平洋では千葉県以南、日本海では新潟県と富山県の県境以南だ。生息水深は日本海では日本海冷水層がある為、深くても110m前後で、太平洋では70〜200m大陸棚斜面に多く生息するが、大陸棚域の200〜400mにも出現し、夜間には水面付近にまで上昇し、2kgを超える大型は日中でも、捕食の為、鉛直移動をする。

東京湾では古東京川の谷跡、東京海底谷の掛け上がりに多く生息し、谷を上がって、浅場に出て、捕食回遊する。

大昔、氷河期に海面レベルが100〜150m下がり、氷河や河川水で深い谷ができ、その後、氷河期が過ぎて温暖になり、海水レベルが上がって、谷は海底に沈んだ。その谷がタチウオの好む環境を作っていて、各地のポイントもそのような海底地形が多い。

産卵場所により、成長速度、回遊行動、産卵時期の異なる、いくつかの系群に分けられると学者は述べている。

東シナ海では春から秋に産卵が行われ、広い範囲にタチウオ卵が出現し、黄海、渤海、対馬暖流域に至る個体群を日本海・東シナ海系群と呼ばれている。

太平洋は小さい系群が多く、東京湾系群、駿河湾系群、伊勢湾系群、瀬戸内海系群がいる。豊後水道や錦江湾の系群は東シナ海系群からの参入、流入もあり、各系群を厳密に分ける必要はないようだ。

太平洋の系群は産卵期が長い傾向が強く、メインは春と秋だが、環境によっては夏でも産卵する。

ec4a088f.jpg

上の目の大きいのがオスで、下の目が小さいのがメスだ。 

 タチウオ、こなや
初秋のタチウオ1kgアップが2匹混じる。美味しい魚だ。

 

f1dbf8c8.jpg

8.5㎏の大ヒラメ!(日立丸)

孵化から3~4ヶ月で5~8cmに成長すると、放流されるサイズになる。水深10~30mの潮流が、緩やかな砂地の沖合に放流される。最近は稚魚放流のアピールなのか、幼稚園児や小学生に浜辺や堤防から放流させている。まだ遊泳力が弱く、波にもまれると弱り、海鳥や魚に捕食されるのを極力少なくする為に、静かな沖合に放流されるのが理想だ。
 
2年魚になると40cm前後に成長、性成熟する個体も出現し、3年魚になると100%性成熟し、産卵に参加する。放流された稚魚が漁師や釣り人の手を逃れ、成長して産卵、卵が孵化して天然種苗となり、資源の減少を食い止めているのだ。

稚魚放流1
ヒラメ稚魚放流。
 
その昔、昭和50年頃の犬吠埼、外川のヒラメ釣りは、早朝にマイワシを20匹ほど釣ってからヒラメ釣りに変わるので、イワシが釣れないとオデコ覚悟の釣りであった。イワシが釣れない時はイカナゴの冷凍を使うが、鈎から外れやすく、釣りにならない。
 
港に帰ると、リヤカーに大きな樽を乗せた仲買人が「生きたヒラメ買うよ!」と声を掛けている。1kg、3000円で買ってくれるのだ。海水を引き込んだイケス屋が多くあり、蓄養して時化が続き、魚価が上がると売りにだし、市場では1kg、6000~8000円になる高級魚であった。

 
ヒラメの稚魚の放流は昭和50年代の後半から始まり昭和60年代に急速に研究され普及した。
 
放流稚魚の数ではマダイより多く、ダントツの1位で、青森県では近年400万匹を放流している。沖縄県や海に面していない県以外の県で行われ、平成13~18年の各年で2500万匹放流されていたが、魚価が安くなりすぎた感じもあり、平成24年では1549万匹の放流で、マダイは1100万匹の放流になった。
 
タイやヒラメ、サケは放流により資源が安定し、魚価も安定し、買いやすい価格になる。
 
養殖では買いたくない人もいるので、放流して自然の中で成長させる。放流魚と天然魚の捕獲率はヒラメで2:8前後であり、マダイは4:6、サケは95%放流種苗である。

ヒラメの消化器官、内臓は魚体に比べて小さいが成長は早く、オスとメスでは成長速度に違いがあり、エリアによっても違いが出る。ヒラメの捕食できるベイトになる小魚のイワシ、アジ、カマス、イカナゴなどが多くいて、捕食ができる期間が長いと成長も早く進み、海水温が13℃以下にならないエリアでは成長が早く進み、潮温が9℃以下になると動かなくなり、捕食活動も鈍くなり、成長も鈍くなってしまう。
 
耳石の解析での寿命は15~17年で、オスは成長が遅く、ゆっくりで、身の厚さも無く薄い身幅だ。体重も3kg、60cmを過ぎると止まってしまう。メスの成長は早く、オスは成長限界の3.5kgになるのに15年かかるが、メスは5年で3.5kgに成長する。

f83e3128.jpg

オスとメスで成長速度が違うヒラメ。 
 
最大は北海道南部の知内(しりうち)の津軽海峡で捕獲されたメスのヒラメ17.9kg、108.7cmがいる。
メスは獰猛で、貪欲でプレッシャーを感じないのか、釣れたヒラメを、船のイワシの生簀に入れるとすぐに捕食を始めたりするのだ。
 
メスの成長の速さを利用して、養殖するヒラメはメスばかりであり、種苗の生産もメスだけの生産が平成3年に神奈川県水産技術センターで技術的に完成し、スキルアップして全雌種苗を孵化させる技術も完成している。放流するヒラメの雌雄の比は50:50である。

 601e95dc.jpg

6.5㎏の大ヒラメ!

白い腹側を下に、内臓のある部分を手前にして、左に目があるのがヒラメ、右に目があるのがカレイで、ヒラメとカレイの見分け方、俗に言う「左ヒラメ、右カレイ」だ。
 
目の位置も、目の形状もカレイとヒラメでは随分と違うし、口唇も違う。ヒラメは歯が鋭く、口が大きい。
 
カレイは歯がある種もいるが、ない種もいて、おちょぼ口でタラコ唇が目立つ。動きの早い小魚を捕食するのと、動きの遅い多毛類、イソメやゴカイ類を捕食する差が出ているのだ。
 
ヒラメは目が片側に寄って、少し目が出て左目で左上部前方、右目で右上部前方を見ているが、両眼で見る立体視野は狭く、黒目がハート形に似て、黒目の形で何が違うのか、視軸、視野が変化するのか?解らない!

IMG_001011
黒目がハートの形に似ているヒラメの目。
 
カレイは目が中央部辺りにより、飛び出して、キョロキョロと動き、潜水艦の潜望鏡の感じで、立体視野は狭そうだが、片眼の視野は広そうだ。

e50b62cd.jpg

マコガレイの目は飛び出している。
 
「左ヒラメに右カレイ」とは,ヒラメとカレイの見分け方の一つだが、カレイの仲間でも左に目があるヌマガレイがいる。生息エリアによって目の位置が違い、アメリカ西海岸では左に目があるのが50%、アラスカ沖では70%、それが日本では100%左に目がある。

日本のヌマガレイ1サンフランシスコのヌマガレイ
日本のヌマガレイ〔右〕とアメリカ西海岸、サンフランシスコのヌマガレイ(左)。目が右の種と左の種でも同じヌマガレイだ。

カレイ目にはヒラメ科なのにアラメカレイ属と名が付く属もあるし、ダルマカレイ科は全種、ヒラメの様に左に目があるし、ボウズガレイ科の目は左右決まっていないし、また、ガンゾウヒラメ属にはカレイと名が付いて、左に目があるメガレイやテンジクガレイ、ナンヨウガレイがいる。魚類分類学者が悪い訳ではないだろうが、ややこしいのが異体類だ。

1be4fcf9.jpg

ガンゾウビラメ属のメガレイ、熱帯エリアに生息するヒラメの仲間。
 
日本の「ヒラメ」は見た目で間違わないが、カレイ目、カレイ科の見分け、同定は至難の業だろう。

↑このページのトップヘ