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東京湾、剣崎のサワラ。

東京湾、観音崎沖のタチウオ釣りをしていると南の方向、剣崎の方向に鳥山が多く見える時がある。タチウオ場の表層潮温が13℃だが、鳥山のエリアは15〜16℃の潮温で、湾内の濁り潮と外洋のブルーウォーターとの潮目のエリアだ。この潮が上げ潮時に観音崎まで入れば、タチウオ釣りのジグにバイトして釣れる魚で、タチウオ同様、犬歯状の歯を持ち、捕食移動が速く、ラン&ガンで攻めるプラグのキャスティング釣りができ、若い釣り人に人気だ。

魚の名前は「鰆(サワラ)」だ。この魚、関東では知名度が低く、捕獲されたサワラの85〜90%は関西に出荷され、京都料理の西京焼きは有名だ。最近は関東のスーパーでも売られ、サワラの食味の良さ、旨さが理解されたのか人気魚だ。釣れた時は、ストレスで出す、体液が臭く、人気が無かった。魚体を曲げたりすると身割れをするので、釣れたら暴れさせずに〆て、丁寧に扱うことが大事だ。

潮温が下がる11月頃から釣れ始め、魚偏に春で表記し、旬は春の記載が多いが、それは日本海や瀬戸内海の産卵前のサワラであり、関東では、寒のサワラ(寒鰆)が大型で美味しい。大型の個体はほとんどがメスで、最大13kgが捕獲されているが、東京湾では9kgが最大だ。寿命はオスで6年、メスで8年だ。

・1年で46cm前後
・2年で68cm前後
・3年で78cm前後
・4年で84cm前後
に成長する。

1年魚の小型50cm以下のサワラをサゴシ(狭腰)、サゴチと呼び、2年魚になる60〜65cm前後をナギ、65cm以上をサワラと呼んだが、現在の市場ではサゴシ、サワラでサイズ分けしている。サワラの古い漢字は「狭腹」である。

岡山県では正月の年取り魚であり、重要な魚種だ。

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新年1月5、6日の寒の入りから1月20日頃の大寒釣れるサワラ、寒鰆だ。

6〜7月頃は潮温の低い大河川の河口部で捕食移動し、北上する。13〜21℃の潮温を好むが寒流域には生息せず、塩分濃度が外洋より低いエリアで少し濁りのある潮目を好む。

日本海の群れは東シナ海で産卵行動をする、東シナ海系群と呼ばれ、津軽海峡まで生息範囲を広げ、秋には塩分濃度の低い、陸奥湾に入り込み、ルアー釣りの新ターゲットになっている。近年、日本海の対馬暖流が強く、東北、日本海の潮温が過去100年の平均より、2℃も上昇している影響である。

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鳥山を見つけ、ノンプレッシャーの群れだと数も釣れるが、丁寧に扱わないと身質が身割れして、ゆるくなり、三枚に捌き難くなる。

太平洋を北上し、東京湾、相模湾、太東崎や北関東沖で釣れる群れは瀬戸内海で産卵する、瀬戸内海系群と呼ばれる魚群である。

この系群は絶滅寸前であったが、瀬戸内海の自然環境を保全し、種苗生産を漁民と官学共同で推進して復活した。

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日本沿岸のサワラ2系群の産卵場と生息地域。

バブル期にビルを作るコンクリートの砂、川砂が足りなくなり、瀬戸内海の海砂を取ったので、サワラのベイトとなる標準和名イカナゴ(玉筋魚)がいなくなったのだ。

なぜかと言うと、標準和名イカナゴ、関西ではコウナゴ(小女子)、東北、北関東ではメロード(女郎人)と呼ばれる小魚で、潮温が上昇し、18〜20℃になる6月頃から12月頃まで、水深20〜25m前後の底質が粗砂、小砂利の中に入り込み、夏眠をする。冬眠の反対だ。

イカナゴの夏眠
瀬戸内海、伊勢湾のコウナゴは仮眠をするので、砂を採取されていなくなった。現在も低水準の捕獲で禁漁期を設けている。

潮温が18℃に下がる12月頃に夏眠から目覚め、粗砂、小砂利に沈性粘着卵を1月頃まで産卵する。夏眠をしない東北、北海道エリアにいる同種の個体と成長サイズの違いがあり、伊勢湾、瀬戸内海の種は寿命3年で最大15cmだが、夏眠をしない北日本の同種は寿命6年、最大26cmに成長する。

イカナゴの砂潜り
潮温が下がる12月に夏眠から目覚め、12〜1月に産卵して成長し、越冬している魚のベイトになるが、追われると砂の中に逃げ、身を隠す。

伊勢湾、瀬戸内海の群れは、20℃以上になるエリアで生息できる生態を獲得したが、それと引き換えに寿命とサイズを犠牲にしたのだ。

サワラの話で何故、イカナゴの大事なのかと言うとサワラは孵化すると直ぐに魚食性があり、魚の仔魚を捕食する。共食い現象も凄く、養殖が難しい魚種で、完全なフィッシュイーターなのだ。

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サワラは生まれながらのフィッシュイーターだ。孵化後10日目、クロダイの仔魚を捕食するサワラの仔魚。


種苗生産の研究所ではサワラの共食いを防ぐ為、大量のタイやヒラメの仔稚魚を餌として、成長させるので大変な経費が掛かる稚魚だ。

瀬戸内海の海底の砂を採取しただけでサワラが絶滅しそうになった。この様に連携している関係で地球は成り立っていて、これが生物多様性の関係なのだ。
 
 サワラの口、歯
タチウオと同じような犬歯が並び、リーダーラインをスッパと切る。プラグでは釣り易いが、ジグで釣る時はジグエンドにトレブルフックを付けることだ。