サワラの太平洋系群の産卵場、瀬戸内海の荒廃を防ぐ為、砂の採取を禁止したが、それだけでサワラが復活するのには無理がある。主要漁法の巻網、流し網などの改善、発達で漁獲効率が良くなり、乱獲へと進んでいった。

生活排水の流入も多くなりチッ素、リンの比率が高く、非珪藻類の植物プランクトンが増え、有毒、有害の赤潮が多くなってしまった。

豊かな海にする為の努力は陸上でも行われ、生活排水の処理施設が徐々に整い、赤潮も少なくなり始め、珪藻類の植物プランクトンが多くなり、それが動物プランクトンの餌になり、動物プランクトンがカタクチイワシ、コウナゴ(標準和名イカナゴ)の餌になり、これらの仔稚魚がサワラの餌になる、ライフサイクル、食物連鎖ができるのだが、巻網、流し網で若いサワラ、1回も産卵した事のないサゴシを捕獲してしまうので種の継続ができないのだ。産卵に来た2年以上のサワラも捕獲し、孵化して夏を過ごした若いサワラも秋には捕獲してしまうので、産卵する機会がないのだ。減るのは当たり前である

香川県では、激減するサワラを守るために平成9年に香川県サワラ流し刺し網協議会が設置され、サワラ流し刺し網漁業者による自主的な秋漁の休漁や網目合拡大による資源管理に取り組んだが香川県だけでは無理がある。

サワラの漁獲量は昭和62年頃、瀬戸内海全体で約6,255tあったが、平成12年には30分の1程の196tにまで激減した。

名物料理や、正月の年取り魚を日本海のサワラで補っていたのは、サワラの消費量、日本一の岡山県で、全漁獲高の30%を消費し、魚価も岡山県の相場で決まる程だ。関東エリアで捕獲されたサワラの90%は関西方面に出荷されている。

サワラのたたき
東京でもひそかに食べられてる「サワラのたたき」。


香川県カンカン寿司1

香川名物「サワラのカンカン寿司」。

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岡山名物サワラのバラ寿司。

 
サワラの料理で有名な岡山県、香川県では平成10年からサワラの種苗生産をし、稚魚放流していたが、瀬戸内海を取り巻く各府県の協力が必要で話し合いがもたれ、水産総合研究センター・屋島栽培漁業センター・サワラ協議会・県漁連が連携し、回遊魚であるサワラを瀬戸内海全域で資源管理する必要性から、平成14年4月に「サワラ瀬戸内海系群資源回復計画」を国が公表。

瀬戸内海11府県のサワラ対象漁業に対し休漁や網目制限、漁獲量規制などについて、瀬戸内海広域漁業調整委員会から指示が出され、国による5年計画の資源回復計画第1号の指示が出され、愛媛県が音頭を取り、「サワラ瀬戸内海系群資源回復計画」に基づき
①漁獲制限、
②積極的な培養、種苗生産と稚魚放流、
③漁業環境の保全と創造
の3要素を柱に、平成23年のサワラ資源量を平成12年の490tの1.65倍にする計画で、瀬戸内海を囲む各府県、和歌山県、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、福岡県、大分県、愛媛県、香川県、徳島県の1府10県が連携しての一大プロジェクトが始まり、平成23年度まで10年間計画が継続された。

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 瀬戸内海サワラ資源回復に取り組む1府10県。
 

サワラは帰巣本能が強く、産卵場所、つまり孵化した場所に、性成熟する2歳魚以上は潮温が14〜15℃になる4月下旬〜5月上旬に産卵の為に瀬戸内海に戻って来る。

産卵は5月中旬から始まり6月の末には終わる。1歳魚のサゴシはそれより半月から1か月遅れで瀬戸内海に来遊する。外洋より潮温の低い瀬戸内海で夏を過ごし潮温の下がる9月頃から越冬と捕食回遊で移動を始める。伊勢湾や東京湾で越夏する小さい群れや、潮温の低い大河川の河口部で越夏する小さい群れもいる。

禁漁、解禁も決められ、稚魚放流の為の種苗生産技術も向上した。産卵に戻ってきた親魚を流し網や巻網で捕獲し、捕獲した船上で親魚から卵や精子を絞り、採卵受精させ、きれいな海水で洗浄して種苗生産センターに運び、分離浮性卵なので沈んでいる受精卵は死んでいて取り除く。卵径は1.3〜1.8mmで潮温18.5〜19.5℃で55時間、21〜22℃で46〜50時間で孵化する。


サワラの採卵
サワラの親魚オス、メスを漁で捕獲し、受精させる。  

孵化した仔魚に、放流した魚である事を示す体内標識、耳石に蛍光染色マークをする為に、アリザリンコンプレクソン(ALC)蛍光染色溶液の入った海水に仔魚を12時間泳がせ、耳石を染める。捕獲時に耳石を蛍光顕微鏡で見ると光って見えるのだが、ALCされた放流魚は外見では判断できずに食べられてしまうのが欠点で、焼印やタグをされた放流魚もいる。

耳石の染色
アリザリンコンプレクソン(ALC)染色でマーキングした耳石。 

耳石の回収
耳石の検査、採取回収。 

体外標識されたサワラを釣ったら、そのエリアの漁業組合や県の水産課に連絡して、釣れた場所、体長や又長、重量を記録すれば良く、魚の提出や魚体の提供は必要ない。釣れた魚を提出すると思っている人もいるようだが、それは誤解で記念品の提供もある。

サワラは孵化して直ぐ食べるのはプランクトンではなく、他の魚の仔魚を捕食する、生まれながらのフィッシュイーターで、成長させるのに大変高価になる。餌はクロダイ、マダイ、ヒラメの仔魚だ。

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 生まれながらのフィッシュイーター、サワラの仔魚がイカナゴの仔魚を捕食。

孵化後2週間を過ぎる頃に冷凍イカナゴの餌に切り替え、45mmになると海上生簀に移す。孵化後6週間、100mmに成長すると船に積み沖合で放流する。

サワラの放流1
100mmに成長し沖合で放流される。 

プロジェクトが始まる前の稚魚放流は6〜7万匹であったが平成14年からは20万匹前後の稚魚放流で移行している。今後もサワラ資源を保護する為、計画は継続され、平成23年の漁獲量は瀬戸内海だけで1,043トンになり、当初の目的は達成し、平成24年に国の指導は終わり、瀬戸内海漁業調整委員会と各府県の水産課に移行して現在も稚魚放流が行われているが昭和60年代の漁獲量には程遠く、まだまだ資源管理が必要だ。

このサワラ資源回復プロジェクト計画の恩恵を受けているのが東海や関東以北の海だ。平成5〜6年頃はタチウオ釣りの外道でたまに釣れたが、最近は高潮温期の真夏以外の朝晩に良く釣れる。それも大型で7〜9kgのサイズがプラグで釣れる。稚魚放流もしていない地域で「漁夫の利」を得ているので標識魚を釣り、協力しようとするが、ALCマークの魚か同定できないで困ってしまう。