93cm1
春に釣れたアフタースポーニング、産卵後のスズキ、全長93cmだがウエイトが無い。

日本に生息しているスズキ(鱸)学名 Lateolabrax japonicus、英名 Japanese seabassは1957年(昭和32年)までは1種だけであったが、魚類学者、片山正夫博士は、沿岸漁業者の間で2種類のスズキがいることが知られていて、魚市場の競りでは値の高いスズキと安いスズキとに分けて扱われていた。これらのスズキを詳しく調査したところ、漁業者のいうように2種類のスズキがいることが解り、新種のヒラスズキとして命名し発表した。

このスズキがヒラスズキ(平鱸)学名 Lateolabrax latus、英名 Blackfin seabassであり、日本に生息するスズキが2種になったのである。

d3d3c7e1.jpg

2fd7d695.jpg

ヒラスズキ、暖流域の磯根の周辺に生息、汽水域に入らない。最大で11㎏に成長する。 


現在はそんなに高いと思わない魚価であるが、その昔は高級魚で魚価が高く、家庭で食する魚ではなく、高級料亭や観光目的の料亭旅館で食されていた魚だ。特に夏料理の「洗い」、や「塩竈」、「奉書焼」は有名で、現在は家庭でも洋食屋でもムニエルやフライで食べられている。

近年、河川や海洋の公害汚染が少なくなり、川や海が綺麗になって、スズキの生息環境が改善された。ご存知の通り、スズキは「通し回遊」、「両側回遊」と呼ばれる、河川と海を行き来する回遊をする。河川の河口部は開けた平野が多く有り、都市が発展しやすく、開発や公害で極端に少なくなった時代もあった。

スズキは他の魚に比べると泥の濁り、透明度の無い水質や公害の汚染水に強い魚で性格も獰猛と思われているが、意外に繊細な面も多くあり、濁っている水質や夜間行動するなど、臆病で警戒心が強い魚だ。

日本に生息するスズキは環境変化に対応する能力が低く、幼魚を捕獲して蓄養しても、環境変化に対応できずに餌を捕食せず、痩せて餓死してしまう個体が多く、養殖に向いてないと判断されていた。

水族館や水族園で展示飼育されている個体は、定置網などで捕獲された個体で丁寧に扱い、当初は元気なのだが餌を食べようとせず、痩せて衰弱し、餓死してしまうのだ。稚魚から飼育し、餌を食べる個体だけを飼育し、成長させ、展示すると良いのだが、展示するまでに多くの死魚と多くの時間が掛かるのがネックになるのだ。水族館や水族園の展示用の大型魚や生息水深が深いエリアの魚種は稚魚から飼育し、水槽に対応するよう

ブリの養殖と同じようにスズキの幼魚を捕獲して、蓄養養殖しようとしたのだが、スズキでは上手くいかなかった。そこで1989年頃から、台湾から種苗を養殖用として輸入し、養殖に成功した。

当時は日本、中国、台湾のスズキも同種とされていて、日本産のスズキは成長が遅く、台湾、中国スズキは日本産に比べ成長が速く、高水温、低水温にも強く、養殖しやすいとされたのだ。

このスズキ「有班スズキ」又は「タイリクスズキ」、「ホシスズキ」と呼ばれるスズキで、黒班の有無は個体変異によって現れる現象と捉えていた。養殖された輸入種苗は、側線の下部にも、背鰭にも、鱗より大きい黒斑が有ることや、成長の速さ、環境の適応性などの違いから、別種である可能性が問われ、形態学的・遺伝学的な精査研究をした結果、在来のスズキとは別種であることが判明した。

85122e5f.jpg

タイリクスズキ、側線の下部にも鱗と同じサイズの黒斑がある。最大20kgに成長する。 

タイリクスズキは1844年に発見、同定されたが、日本のスズキ、学名Lateolabrax japnoicusのシノニム、同種異名とされたが、異種であると判断され認定の回復がされるまでの間、しばらく学名がなく、Lateolabrax spであった。spはspicesの略で種を意味している。要するにスズキの仲間であるとのお墨付きでいたのだ。1995年に和名「タイリクスズキ」の名が付けられ、日本の生息するスズキは3種になった。

日本のスズキも若魚の2歳魚までのセイゴには、側線の上部側や背鰭に少数の黒い斑点がある個体が確認されている。紀伊半島から西のエリアには有班魚が多く確認され、特に養殖生け簀の多く有る、瀬戸内海や宇和海では釣れるスズキの大部分は大陸系の有班スズキのエリアもある。養殖生け簀から逃げ出す個体もあるだろうが、親魚として飼育、成長させていた個体の老齢化により、飼育を放棄し、海に捨て、逃がしてしまい、日本のスズキとの交雑、雑種が発生しているのだ。

72b68118.jpg

スズキの仔稚魚の成長。 

日本産スズキは3歳で性成熟し、50〜60cmのサイズでフッコと呼ばれるサイズに成長すると黒斑が消えるのか、黒斑のある個体が少なくなる。

b4f552fd.jpg

コンデションの良い、フッコと呼ばれるサイズ。頭が小さく、小顔に見える魚は上物で美味しい魚だ。

094537fe.jpg

タイリクスズキのフッコサイズ。